私は、絵画を通して「何が人を生かしているのか」を見つめています。
人は何に支えられ、何を頼りに、今日まで生きてきたのでしょうか。
願い、記憶、祈り、信念、誰かとの関係。
あるいは、喪失や悲しみ、怒りや悔しさのようなもの。
人の内側には、本人にも自覚されないまま、その人生を支えているものがあります。
私はそれらを「人生の宝物」と呼んでいます。
画家として活動を始めて十年が経ちました。
その間、私は人々の中にある大切なものを見つめてきました。
そして今、自分自身を支え、生かしてきたものが、絵画であったことに気づきました。
人は、なぜ絵を描いてきたのか。
絵画は、人々の何を支えてきたのか。
人間は長い歴史の中で、信仰や祈り、権威や記憶、日々の喜び、言葉にならない思いを、色や形に託してきました。
私は絵画を、歴史上の偉大な作家だけのものではなく、名も残らない無数の人々によって受け継がれてきた「描くという人間の営み」として捉えています。
私はその長い流れの中にいる一人として、今の時代に生きるこの身体と感覚を、描くという営みに差し出したいと考えています。
制作では、完成図を定めません。
手を動かし、色に応答し、身体の感覚に従いながら、色や形を重ねていきます。
私にとって絵画は、あらかじめ決めた考えを説明するためのものではありません。
思考や言葉だけでは届かないものに、身体を通して近づいていく行為です。
また、私は目の前の一人のために即興で絵を描く「絵詠み」を続けています。
相手の人生に心を向けて描いていると、その人をここまで支えてきたものに触れることがあります。
かけがえのない願い。
痛みの奥に残る光。
誰かから受け取った愛。
それらが、色や形となって現れることがあります。
一枚の絵が、観る人自身を今日まで生かしてきたものや、これからの自分を支えるものへ目を向ける入口になり得ると考えています。
私は、絵画という長い人間の営みに参加し続けたい。
そこに身体と感覚、時間と経験を注ぎながら、何が人を生かしているのかを問い続けていきます。
2026年6月